大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和36年(ワ)4555号 判決

原告 鈴木喜代志

被告 更生社会北タクシー株式会社

管財人 井立田七右衛門

右訴訟代理人弁護士 大原信一

和田栄一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

原告の主張事実はすべて被告の認めるところである。しかし、満期後の手形債権について、たとえ、指名債権譲渡の方法による債権譲渡を認むべきものとしても(遡求権に基く償還請求権について、昭和七年一二月二一日民集一一巻二三六七頁、期限後の手形債権について同一二年六月一四日民集一六巻七九三頁の各大審院判例)、手形債権の一部をかかる方法によつて譲渡することはできないものと解するを妥当とする。けだし、この場合には、手形を分割して譲受人に交付する方法がなく、一部裏書を無効とする法の趣旨にも反するからである。もつとも、右の方法による手形債権の一部の譲渡に際し、手形を譲受人に交付する場合は、これを有効と認むべきではないかとの論も考えられないことはないが、仮りに、これを是認すべきものとしても、かかる一部譲渡の場合に譲受人が手形の交付を受けたというような異常の事実は譲受人においてこれを主張立証すべきものといわなければならない。本件における原告の請求は、手形債権の一部を指名債権譲渡の方法により譲渡を受けたことを前提とするものであり、しかも、原告において、その手形の交付を受けてこれを所持しているものではないことは弁論の全趣旨により、その争わないところと認むべきであるから、原告の本訴請求は、いずれにせよ、その余の判断をまつまでもなく、失当として、これを棄却するのほかはない。よつて、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長谷部茂吉 裁判官 玉置久弥 白川芳澄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例